助成先探訪

本記事でご紹介の岡山県久米南町が2022年11月22日(火)シンポジウムに登壇予定!

「地域に合った移動の仕組みづくり」プロジェクトの助成先を、まち探訪家の鳴海さんが取材しました。
「移動の仕組み」だけでなく、その地域の魅力もお届けします。

2022.10.31

棚田の間を走る「オンデマンド交通」が最新技術を導入したワケ ― 人口4500人、高齢化率45%の町で利用者を2倍にした挑戦的取り組みを追う -

駅発、棚田の見えるカフェ行きのオンデマンド交通

弓削駅とカッピーのりあい号

 中国地方第2の都市、岡山市から2両編成のディーゼルカーにゆられること1時間。久米南(くめなん)町にある弓削(ゆげ)駅で列車を降りる。木造の駅舎がローカル線の旅情をかきたてる。

 数人の乗客が降り、駅前に停まっていた迎えの車に乗っていく。その中に、黄緑色のトヨタ・シエンタが停車していた。遠目に目立つ色で、この車だけドライバーさんが車外に出てきた。
 このシエンタはオンデマンド交通の「カッピーのりあい号」の車両だ。今回は私が列車の到着するタイミングにあわせてスマートフォンから予約をした。
駅の写真を撮影してから車に近づくと、先にドライバーさんと話す人の姿があった。どうやらこの方と途中まで乗り合いのようだ。

 名前を告げ、車両に乗り込み、まもなくして発車する。運転席を見ると、タブレットがあり、次に行く場所へのルート案内が表示されている。このタブレットとつながっているのがこのオンデマンド交通を支える予約・配車システム「SAVS」(Smart Access Vehicle Service)だ。函館発のベンチャー企業・未来シェアが開発したAIを活用したシステムで、予約が入るとルートを最適化して作成、すぐに配車時間と到着予定時刻が利用者とドライバーに知らされる仕組みになっている。

 私が乗った「カッピーのりあい号」の車両はまず、一緒に乗り合いをした方の自宅へ向かう。その方の自宅の近くにも駅はあるが、乗ってきた列車は快速だったために自宅近くの駅には停車しない。そこで「カッピーのりあい号」を利用することにしたそうだ。
 乗り合った方を降ろすと、降車位置に指定した場所へと車両は向かう。山の中に入り、2車線どころかすれ違う場所もあまりない道をすいすいと進んでゆく。山中には棚田が至る所にみることができた。

 道中、ドライバーさんに話を聞くと、冬は雪や凍結で運転が大変だそうだ。それでも、多くの人がこの「カッピーのりあい号」を使うのでやりがいがあるという。そんな山道を丁寧な運転で20分ほど。降車場所に指定したカフェ「籾庵」に到着した。
 ここは「日本の棚田百選」のひとつ、「上籾の棚田」に近く、棚田を眺めながら全粒粉を使ったケーキや、地域の名産であるゆずを使ったスイーツをいただくことができる。少し天気は悪かったが、それでも棚田を眺めながらいただくスイーツとお茶はおいしかった。

 1時間ほどゆったりとした時間を過ごすと、スマートフォンで「カッピーのりあい号」を予約する。すると、指定時間よりも少し早く車両がやってきた。「籾庵」の方も車両を物珍しそうに見ており、やがて「これはなんですか?」と聞かれた。私が「町の乗合交通で、スマートフォンで予約すると町内どこにでも行けるのですよ」と答えると、大層驚いていた。
 今度は弓削駅に戻る予約をしており、車両も山を下り始めた。途中取材目的であることを伝え、写真を何枚か撮影させていただきながら、20分ほどで再び弓削駅に到着。乗車1回あたり300円の現金決済。今回は2回乗ったので600円だった。これだけ山の中を走ってこの価格はかなり安いと感じた。

 ちなみにドライバーさんによれば、免許返納者に配布される「おかやま愛カード」を使えば半額となるため、1日何往復も足として使う人もいるという。確かに町内での取材中に何度も「カッピーのりあい号」の姿を見かけ、需要の旺盛さをうかがい知ることができた。

岡山と津山の中間に位置する「高齢化率45%」のまち、久米南町

久米南町の地図(久米南町地域公共交通計画および地理院地図を参照し、筆者作図)

 「デマンド交通 カッピーのりあい号」が走るのは、冒頭で紹介した通り、岡山県久米郡久米南町だ。町名は久米郡の南という場所に由来する。
 久米郡は津山市に隣接する郡で、久米南町は郡内でも南側にあたる。また、町の南側は岡山市北区に接している。つまり、岡山と津山の中間に位置する格好になっている。町役場基準で見ると岡山市からは北に40km、津山市からは南に20kmという位置関係となっており、津山市の方が少し近いようにも感じるが、実際は町内でも岡山市の方が近いエリアもある。

 町の形は丸にしてはすこしゴツゴツとした印象を受ける。面積は78.65平方キロメートル。概ね北海道室蘭市と同じくらいの大きさだ。人口は約4500人で、高齢化率は約45%と岡山県内の自治体で最も高い。
 上から俯瞰するように見ると、南北に旭川水系の誕生寺川が流れ、それに沿うように国道53号線やJR津山線が走る。誕生寺川の東西にはいくつかの小さな谷を形成する川があるが、基本的には吉備高原の高地が広がる典型的な中山間地域だ。

 一見、平成の大合併で合併し、既になくなっていてもおかしくない自治体のようにも見える。しかし2003年に行った住民投票で町民の約2割が単独町制を望んだ。また、約3割が合併を希望した建部町(現在の岡山市北区)とは建部町の意向で合併が破談となり、続いて約3割が希望していた久米郡内での合併も財政問題により久米南町は離脱。結果として単独町制の道を選んだ。そのため、昭和の大合併から現在まで同じ形で町が残っている。

※特記がない写真は筆者撮影