助成先探訪

本記事でご紹介の岡山県久米南町が2022年11月22日(火)シンポジウムに登壇予定!

交通の要衝から発展し、川柳でまちを彩る町中心部

弓削のまちなみ。軒先には川柳が書かれたのれんがさがっている

 昭和の大合併では弓削町、誕生寺村、竜山(たつやま)村、神目(こうめ)村の1町3村が合併した。この旧町村名は現在も地区名として使うことがあり、弓削地区、誕生寺地区、竜山地区、神目地区と久米南町は4地区にわかれる。

 町内で一番大きいのは弓削地区で、町役場のほか、スーパー、ドラッグストア、コンビニが国道53号線沿いに立地する。元々は岡山から津山方面を結ぶ道と片上(現在の備前市)や西大寺(現在の岡山市東区)から津山方面を結ぶ道の合流点にあたる交通の要衝だ。そこに誕生寺川の支流が扇状地を形成していたこともあり、人々が居住をはじめ、街道沿いに市を立て発展していった在郷町だ。

 在郷町の面影は国道53号線から少し東に通る旧道に残っている。道路を2度直角に曲げてクランク状にして、防衛機能を持たせた「枡形」があるのだ。そして周辺には少ないながらも店舗や事業所が立地し、必ず川柳の書かれたのれんが飾られている。

久米南町はいたるところで川柳が見られる

 川柳は久米南町で戦後起こった文化運動で、誰でも手軽にでき、まちを明るくし、人の心をつなぐ潤滑剤として弓削地区の歯科医が始めた。1949年に西日本川柳大会を開いたのをはじめ、町内のいたるところで川柳を見かける。町役場近くから西の山に登ると町を見下ろす展望台がある「川柳公園」まである。

 1992年に制定された久米南町のキャッチフレーズは「川柳とエンゼルの里・久米南」。エンゼルにはさまざまなポエム的な意味が含まれるが、それと並びまず「川柳」がきていることから、町としても重要な文化運動と認識していることがうかがえる。

法然上人のふるさと「誕生寺」、もうひとつの顔は「サイフォン村」

 弓削地区からみて北に位置するのが誕生寺地区だ。浄土宗の開祖、法然上人誕生の地とされ、それにちなんで「誕生寺」と名付けられた寺が建てられた。こうしたお寺はもっと観光客が多くいてもいいと感じるくらい人は少なく、参道に土産物屋が立ち並んでいるわけでもない。いい意味で質素かつ敷居の低いお寺だ。

 誕生寺の北側は旭川水系と吉井川水系の分水嶺ともなっており、旭川水系の誕生寺川には江戸時代につくられたため池、誕生寺池がある。
 誕生寺の西側にある高坊山(標高526.7メートル)から注ぐ水は灌漑用の水として誕生寺地区を広く潤す。まず神之淵(かんのぶち)池に集められた水は、灌漑用水によって広い地域に注ぐ。この灌漑用水は大正末期の干ばつを受けて5年がかりの大工事で建設された。中山間部ということもあり、サイフォンやトンネルが活用され、サイフォンが複数あるのが大きな特徴だ。一時期は「サイフォン村」と呼ばれ、全国各地から視察があったという。

 特に「神谷サイフォン」と名付けられたサイフォンでは深く切れ込んだ谷をくぐって向かいの高地上に通されている土管が露出しているところを見ることができる。谷の高低差は約50メートルあり、こんな谷を挟んだ向こうに水を通すことをよく考えたものだと感心する。それだけ豊かに暮らせるように、知恵をめぐらせて努力をしてきたということなのだろう。灌漑用水そのものや用水が潤す棚田を建設の背景を知ってから見ると、また違って見える。

 高低差の激しさは素晴らしい景観も生み出す。神之淵池の上流の棚田は「北庄の棚田」として、「日本の棚田百選」に指定されている。町内では私が冒頭、「カッピーのりあい号」で訪ねた「上籾の棚田」も指定されている。

法然上人のふるさと、誕生寺

神谷サイフォン

北庄の棚田。画像左側の奥に見える池が神之淵池

「棚田」、「ぶどう」、「きゅうり」……いまも第1次産業が盛んな久米南町

 上籾の棚田は誕生寺地区からひとつ山を南にこえた竜山地区に属する。
 竜山地区は久米南町の中で唯一地区内に国道やJR津山線の駅を持たない。全体が吉備高原の山中にあり、「上籾の棚田」のほかにも棚田が広がる。1950年代までは鉱山もあり、鉱山で働く人やその家族も住んでいたために人口も多かった。現在も鉱山の跡地にはうち捨てられた建物や施設跡が残る。

山手集落の様子。奥のビニールハウスでぶどうを栽培する

 地区内を通ると特に小さな集落が点在しているところで、谷筋沿いに集落が発展しているわけでもなく、吉備高原内の少し平らになった場所に人が住んでいるという印象を受ける。それでも集落内で家によって高低差がある場所も目立つ。
 竜山地区から再び誕生寺川沿いに南東に降りていくと神目地区に出る。岡山から弓削を通り、津山へ向かう古道の津山往来は神目駅近くから現在のJR津山線に沿って弓削に向かっていたとされている。
 誕生寺川近くに広がる集落は国道が開通してから商店ができたエリアで、そこから山中に入ると棚田のほかに果樹栽培が目立つ。特に神目駅からみて東、赤磐市との境に近い山中の山手集落ではぶどうの栽培が盛んだ。吉備高原の寒暖差がよいぶどうを育てる。
 久米南町はこのぶどうのほか、きゅうりやゆずの生産も盛んだ。国道53号線沿いの道の駅「くめなん」横の農産物直売所に寄ると、きゅうりの陳列が目立った。生産量はなんと岡山県の自治体で最も多いという。
 久米南町の4地区の様子をざっと紹介してきたが、まさに農業中心の中山間地域という趣だ。実際に工場は弓削地区を中心に数えるほどしかなく、サービス業では介護施設やデイケアで働く人が多いという。

※特記がない写真は筆者撮影