助成先探訪

本記事でご紹介の岡山県久米南町が2022年11月22日(火)シンポジウムに登壇予定!

狭隘山道だらけでも公共交通空白率は0%

 久米南町の公共交通機関は現在、鉄道・バス・タクシーと「デマンド交通 カッピーのりあい号」がある。
 鉄道はJR津山線が町内に神目・弓削・誕生寺の3駅を持ち、1日あたり岡山方面24本、津山方面22本が設定されている。このうち町内では弓削駅にのみ停車する快速列車は1日7往復設定されている(2022年10月現在)。

久米南町内を走る津山線

 バスは神目地区にある公民館支所から岡山県北区にある福渡病院を結ぶ路線バスが運行するほか、町が運営するスクールバスへの混乗も可能だ。
タクシーは営業所が1つあり、事業者は福渡病院へのバスとスクールバス、そしてオンデマンド交通の運行を一手に担っている。
 本数やカバー範囲を見ると町外への移動は鉄道の存在感が強く、町内の移動は「カッピーのりあい号」の存在感が強い。運行時間に偏りがある病院への路線バスやスクールバスと異なり、平日は7時半から18時半、土休日も8時から17時と幅広い時間をサポートする。また、エリアも停留所の指定がないため、町内ならばどこでも乗降可能で、公共交通の空白率は0%となっている。

久米南町の道のイメージ。画像のような狭い道が多い

 しかもこの「カッピーのりあい号」、町民に限らず利用可能で、電話だけでなくスマートフォンでも予約でき、空いていればすぐに配車してもらうことができる便利なものだ。
 都市部であればすぐに配車してもらえる交通機関としてタクシーがあるが、久米南町の場合は中山間地域。しかもほとんどの道が2車線もない山道で結ばれている。

 そんな山道を走り、「カッピーのりあい号」は町内の隅々の集落・人家へ行く。そしてその運行を支えるのはAIを活用した予約・配車システム「SAVS」だ。中山間地域とICT技術の組み合わせという珍しさもあり、全国から「カッピーのりあい号」の視察に来る自治体やメディアがある。
 では、どんな経緯を経て「カッピーのりあい号」が現在の形での運行になったのだろうか。ここからは関係者の声を交えながら軌跡を追っていくことにする。

はじまりは町民バスが抱える問題解決から

 久米南町が平成の大合併に揺れていた2000年代、町内の交通もひとつの転換点を迎えていた。これまで国道53号線で運行していた民営バスが撤退、また同時期にタクシー事業者も撤退した。
 一方で久米南町では町営で定時定路線(時刻と経路が決まっている)型の町民バスが2005年に運行を開始、先ほど紹介した4地区を満遍なく走る路線網を形成した。久米南町の山道は狭いため、比較的平地を走る2路線は定員30人弱の小型バス、他の路線は定員10人強の大型ワゴンを利用していた。

2005年からう2017年まで運行していた町民バス
(久米南町地域公共交通網形成計画から引用)

 こうした自治体運行のバスは中山間地域ではよく見られる。そして10年弱、あえて厳しい言い方をすれば特に大きな改革をすることもなく運行していたのである。しかし、その結果、法令違反ギリギリの事態になってしまっていたことが、2013年頃に岡山県が行った研修や調査の結果、判明した。

 大きな問題として、運賃収受の問題があった。立て付け上は無償であったが、一時期有償で走らせていたこともあって、運賃を支払おうとする人が多かった。そのため、運賃を寄附金として受け取っていたのだ。これは白タクならぬ白バス行為であり、きちんと整理しなくてはならなかった。
 運賃をとるか、とらないか。久米南町役場の担当者は、お金が絡んでくることの整理にあたっては、行政が一方的に勝手に決めるわけにもいかないと考えた。そこでまずは住民と学識経験者を交えた勉強会を開いた。学識経験者は岡山県の担当者から紹介をうけた岡山大学の橋本成仁教授を招き、橋本教授の提案でまずは町民バスに乗って考えるところからスタートした。

 町民バス見直しの勉強会から「カッピーのりあい号」への「SAVS」システム導入までを久米南町職員として担当した木多央信さんは、こう語る。
 「町民バスに皆で乗ってみたところ、不便だという話になりました。なので、そもそもバスを有料で運行するか、無料で運行するかを検討するのではなく、そもそもこの町民バスのままでいいのかどうかを検討することになりました。そして、本格的に検討し直して、町全体の交通のあり方をどうするべきかを検討した方がいいという結論になったんです。」

※特記がない写真は筆者撮影