助成先探訪

本記事でご紹介の岡山県久米南町が2022年11月22日(火)シンポジウムに登壇予定!

町民バスを大幅見直し、オンデマンド交通導入へ

 ここまで何度も書いた通り、久米南町は吉備高原の山中に集落や人家が点在している。特に高低差が激しく、主な利用者層である高齢者にとってはバス停まで行くにも一苦労でなかなか利用できないという状況だったのだ。
 このまま町民バスを運行しつづけてもあまりよいことはない。そこで、2014年に施行された改正地域公共交通活性化再生法に基づく地域公共交通網形成計画を策定し、町の未来のために交通のありかたを1から見直すことにした。

久米南町の高低差のイメージ。実際同じ集落でも住戸間でも高低差が激しい場所は町内に広く分布する

 地域公共交通網形成計画の策定にあたってはプロポーザル方式で計画の策定をサポートする事業者を選定することになり、選定されたのが、島根県出雲市に本社を置くコンサルタント、株式会社バイタルリードだった。バイタルリードは島根の本社の他に広島にも支店を持ち、中国地方全域および四国の瀬戸内側までをカバー範囲とする。久米南町を担当したのは島根の本社に所属する宮下和也さんだ。宮下さんは久米南町の公共交通網形成計画に関わることになった時の印象についてこう語る。
 「久米南町は形がげんこつみたいな形で、面白いですよね。そして、真ん中に全部役場とかスーパーとか集中していて、国道53号が南北に通っています。外側は丘陵みたいな形になっていて、道幅は狭いですが、網の目状に道があります。オンデマンド交通を入れたいと聞いて、久米南町はやり方次第ですが、結構うまくはまるのではないかと思っていました。」

当初のオンデマンド交通の運行形態
(久米南町地域公共交通網形成計画から引用)

 オンデマンド交通とは、予約が入った時に運行する乗合交通機関で、タクシーのように時刻・乗降場所といったきめ細やかなオーダーに答えながらもバスのように人がのりあうことで効率的に輸送することを理想とした交通機関だ。バスとタクシーのいいところどりという説明もされるが、実際は乗合率があがらない、運営が難しいといった課題もある。
 ちなみに「デマンド交通」という用語が使われる場合もあるが、オンデマンド交通とデマンド交通に大きな違いはない。詳細は下記の参考資料をご覧いただきたい。
(参考資料:オンデマンド交通とはなんですか? | 地域公共交通のトリセツ(取組説明書) https://text.odekake.co.jp/20200615-2/

 地域公共交通網形成計画策定当初からオンデマンド交通は有力な選択肢とはなっていたようだが、予約の手間というのが大きな壁となる。そのため、地域の住民からは従来の路線バス型がいいという意見も根強くあった。
 それでも協議会の会議ではオンデマンド交通を導入する方向に少しずつ固まっていった。そして、2015(平成27)年度に2度のオンデマンド交通の実証実験を行った。
 まず1度目の実証実験では弓削地区と竜山地区で乗降場所を細かく設定するタイプのオンデマンド交通を運行した。しかし、想定していなかった場所への利用もあり、乗降場所を実証実験中に何度も増やしていくことになった。そしてここでも乗降場所までの高低差があって利用がしにくいという声もあった。

 一方で、1人1回使ってみて欲しいという意味を込めたチケットをつけたチラシを実証実験地区内で配布し、周知して認知度も上げた。すると、思わぬことがわかった。使う人は周囲の家庭からチケットを集めて何回もチケットを利用してオンデマンド交通を使っていたのだ。本当に困っている人はオンデマンド交通を必要としていることが見えてきたのである。
 そこで2度目の実証実験からは、対象エリアを町内全域に拡大し、町内を5つのゾーン(4地区および弓削地区を弓削ゾーンと全間ゾーンに分割)に分け、ゾーン内はどこからでも乗降可能、弓削・神目・誕生寺の各地区でも商店や医院などがあるエリアについては指定された場所で乗降をするという形態でオンデマンド交通を運行することになった。

 この実証実験ではゾーンを跨いだ利用をしたい声がでてきた。そこで、弓削地区に各ゾーンから一斉にオンデマンド交通の車両が集まり、弓削地区で乗り継ぎをして他地区に行けるようにするダイヤを引いた。
 かくして2016(平成28)年度に「デマンド交通 カッピーのりあい号」が本格運行となった。町民バスの課題解決開始から3年かけ、あたらしい久米南町の輸送手段に生まれ変わったのである。

 ここまでの流れを見ると、公共交通網形成計画の起点こそ特色はあるが、中山間地域でよく見られるオンデマンド交通に落ち着いたという印象を受ける。実際、周知できるようにある程度時間を決め、限られた台数で行うという制約があると久米南町のような形態に落ち着きやすい。
 住民側からみても、利用1時間前までに電話予約をすればオンデマンド交通が家の前まで来てくれ、弓削地区まで乗れば久米南町内を乗り継いで移動することができる。これだけ見ると悪い仕組みには思えない。しかし、いくつかの課題が残っていた。

※特記がない写真は筆者撮影