助成先探訪

本記事でご紹介の岡山県久米南町が2022年11月22日(火)シンポジウムに登壇予定!

立ちはだかる大きな課題、そしてみつけた「最新技術」

 2016(平成28)年度に運行を開始した「カッピーのりあい号」は、弓削地区中心部から各地区へ6往復する12便を運行していた。朝の1往復のみ前日までの電話予約、2往復目以降は1時間前までの電話予約で乗車可能で、医療機関の開院時刻と合わせると、2往復目の各地区発(3便)にどうしても利用が集中してしまっていた。また、3往復目(5便)を使うと仮に弓削地区中心部に出て買い物や用務を済ませても4往復目の各地区に行く便(8便)まで時間が空いてしまう。そのため、3便で各地区から出発し、6便で各地区へ戻るという利用に偏ったのだ。

 そうすると、他の便は運行しても非効率な状態であった。かつ3便への集中を緩和するには、ピーク対応のために台数を増やすか、こまめにゾーンを分割するしかない。しかし、規模の小さな久米南町には予算が限られている。台数を増やすのは難しい。そうかといってゾーンを分割するとまた周知などが大変になる。つまり、周知のために人力でダイヤをある程度固定してオンデマンド交通を運行する限界にぶちあたったのだ。
 なにかいい知恵は無いか。久米南町の担当者である木多さんは岡山県の担当者や岡山大学の橋本教授などから意見を聞きつつ、考えていた。しかし、決定的な案が出ないままに年月が過ぎていった。

利用の偏り(トヨタ・モビリティ基金への報告書より引用)

 そんなある日のこと。岡山県が実施する各自治体の公共交通担当者を集めて研修や会議などを行う場で、岡山県の担当者から久米南町のオンデマンド交通の課題を解決するかもしれないツールの紹介を受けた。それが株式会社未来シェアの「SAVS」システムだった。
 株式会社未来シェアは2016(平成28)年にはこだて未来大学発のベンチャー企業として創業。フィンランド・ヘルシンキを範とした新しい公共交通の形としてMaaS(Mobility as a Service)が日本国内に紹介されると、「ラストワンマイル」と呼ばれる駅までの交通機関、バス停までの交通機関が注目された。そこでオンデマンドバスおよびICT技術を活用した予約・配車システムが注目され、2019年頃から各地でMaaS実証実験の1ツールとして「SAVS」システムが盛んに活用するようになった。岡山県の担当者は「SAVS」システムを使って行われた実証実験のうち1つを視察してきたのであった。
 元々オンデマンド交通向きの久米南町で、ゾーンも撤廃し、配車予約が入れば機械が自動でルートや運用を組んでくれるというこの「SAVS」システムは、乗合率を上げると共に効率的な車両運用に寄与することが期待できた。導入してしまえば、久米南町の「カッピーのりあい号」が現状で抱える課題は解決できることが期待できた。

助成金で資金調達後も様々なハードルが。そして新しいオンデマンド交通誕生

 しかし、導入にはハードルがあった。それは、導入コストだ。実は「SAVS」システムを知るまでも木多さんはオンデマンド交通のシステムをいくつか見てきた。しかし、いずれもコストの関係で導入に踏み切れなかったのである。それは「SAVS」システムについても同じで、とりわけ導入コストの目処が立たなかったのである。

 このハードルを前に木多さんは他の方法も含めて検討していた。そんなある日、岡山大学の橋本教授に意見などを聞きに向かうと、橋本教授は「SAVS」システム導入に使えそうな助成金の案内を見せてきた。それが、トヨタ・モビリティ基金の助成金だったのである。
 トヨタ・モビリティ基金の助成金が使えれば、「SAVS」システムを導入することができる。導入さえできてしまえばランニングコストは車両運用の効率化でむしろコストカットになる試算はできていた。そのため、木多さんは助成金の申し込みを決め、申請を行い、結果見事採択された。

 申請時の計画には「SAVS」システムの導入のほか、「SAVS」システム導入で可能となるスマートフォンによる予約を普及させるための講習会、「カッピーのりあい号」で使う乗用車の荷室を使った貨客混載によるさらなるオンデマンド交通の活用も盛り込んだ。
 助成金が採択され、資金の目処がつけば、あとは「SAVS」システム導入に動くのみ。そこで行政への許認可の申請や「カッピーのりあい号」を運行する事業者への説明・交渉が始まった。

カッピーのりあい号の車両

 よく、オンデマンド交通はタクシー事業を圧迫するとして、事業者から反対意見があがることが多い。しかし、久米南町の場合、「カッピーのりあい号」が運行を開始したあとに事業者がタクシー事業を開始(復活)した。そのため、オンデマンド交通とタクシー利用者は住み分けされており、タクシー事業が圧迫される部分はあまりなかったといえる。

 「カッピーのりあい号」を使えば300円で移動ができる。ただ待たされることもあるし、乗っていたら違うところに寄っていくこともある。隣に人が乗ってくることもある。そういうのが嫌な人は、わざわざタクシー料金を払います。だから、オンデマンド交通の利用者が増えても、タクシーのお客さんが減ったり増えたりしないと思いました。タクシーに乗っている人はタクシーがいいから乗っているので。そして「カッピーのりあい号」を使う人が増えれば、そのカバーにタクシーが入る契約を検討していたので、タクシーの稼動も増える可能性もあります。だから「カッピーのりあい号」に「SAVS」を入れてもこれ以上悪くなることはない。むしろ入れたらよくなることもありますよという話をしました。」(久米南町・木多さん)

 また、「SAVS」導入後もタクシー事業者に何度となく数字を求め、議論を整理していくなかで、地域の総合病院である隣町の福渡病院に「カッピーのりあい号」を乗り入れさせる話も出た。タクシー事業者は当初これも嫌ったが、結果的には事業者が福渡病院との間に一部予約制ではあるが、路線バスを運行することを決めた。
 推測ではあるが、議論して数字を出していくなかでニーズが見え、路線バスの運行の道筋がついたのだろう。こうして、オンデマンド交通からタクシー事業が復活し、さらには民営路線バスまで復活することになった。
 久米南町としても「カッピーのりあい号」を無理に福渡病院まで運行すると「SAVS」システムのカスタマイズ費用がかかり、車両が町外の病院までいく時間の分、町内の交通を捌けなくなるといったデメリットもあった。そのため、「カッピーのりあい号」は久米南町内だけの運行となった。

 こうしてタクシー事業者との交渉もすすみ、あとは国の許認可がおりるのを待つだけとなった。しかし何度もやりとりをすることになった。その中でわかったことは、久米南町のようなタクシー事業者が一度なくなっているという事態がそもそも国で想定されていなかったことだった。最終的には久米南町の実情と経緯を説明し、納得の上で許認可を得た。
 こうして、2020年1月に「カッピーのりあい号」はリニューアル。「SAVS」システムを導入し、ゾーン制やダイヤもないオンデマンド交通になったのだ。

※特記がない写真は筆者撮影