助成先探訪

本記事でご紹介の岡山県久米南町が2022年11月22日(火)シンポジウムに登壇予定!

オンデマンド交通+最新技術で何が変わったか

ドライバー席横に据え付けられたタブレットでSAVSシステムに基づいた運行計画・ルート表示をみることができる

 導入効果としてまず挙げられるのは車両運用の効率化で、運用台数を6台から5台に減らすことに成功した。そして、コロナ禍で外出控えが進む中でも利用者も徐々に増え、同年9月には1月あたりの利用者が1000人を越え、それ以降も季節による差があるが、増加傾向が続いている。
 また、乗合輸送なので、やはり乗合い率も大事だ。その割合は「SAVS」システム導入前が高くても月平均20%台前半だったのに対し、2021年度には30%前後にまで上昇している。運用している車両の多くが定員5人程度のミニバン、基本ドライバーを抜くと3人しか乗れないことを考えれば、決して悪くない割合になりつつある。

 助成金を1回いれることでイニシャルコストを賄い、ランニングコストはコストカットしつつも利用者増を達成する。これほど効果的な助成金の使い方はない。
 そしてコストカットで浮いたお金はただ町の予算に回すのではなく、さらなる利用増のために再投資を行った。それが運行時間と曜日の拡大だ。
 2021年4月から土日祝日の運行を開始、平日の運行時間も8時から17時だったのが、7時30分から18時30分と2時間拡大した。これにより、コロナ禍の中でもさらに利用者は増え、ついには「SAVS」システム導入前に比べて利用者数が2倍にまで増えたのだった。
 2020年6月からは荷室も活用した貨客混載も行っている。専用の宅配用ケースを用意し、その中に収まる10kg以内の品物を輸送できるようにした。現在は町内5つの商店から個人宅への宅配サービス、町内の住宅間での農産物輸送(おすそ分けサービス)、農産物直売所への出荷サービス、保育所の給食となる食材輸送を行っている。

「カッピーのりあい号」の月別利用者数(のべ)の変化(トヨタ・モビリティ基金への報告書より引用)

「カッピーのりあい号」の月別乗り合いトリップ数および乗合率の変化(トヨタ・モビリティ基金への報告書より引用)

システムは最新のICT技術、しかし進まぬ利用者の技術活用。そして助成金の課題

 ここまで、結果だけを見ると、トヨタ・モビリティ基金の助成金を導入したことで「カッピーのりあい号」は地域の交通としてよりよいものになった。しかし、やはり変化をすればその分また新たな課題が出てくる。
 そのうちのひとつが主に利用者側のIT活用、特にスマートフォン予約の普及だ。
 「SAVS」システムの導入自体はスムーズで、ドライバー、コールセンターのオペレーター共にすぐに慣れたとのことだが、利用者がまだまだIT化の恩恵をうけきれていない。現在の「カッピーのりあい号」はweb予約ができるだけでなく、遅延した場合はスマートフォンでその時点の車両位置がわかる。雨天の日など非常に重宝しそうな機能なのだが、なかなか普及していない。
 大きな理由は「カッピーのりあい号」の主な利用者が高齢者のため、スマートフォン予約の仕組みおよびやり方を知らないことだ。そのため現在も予約の9割以上が電話予約だ。

SAVSシステムの予約画面

 また、端末からの利用予約ができれば、例えば医院や役場など、主要な発着地点に端末を置いて、自宅への帰りの便を予約するという仕組みもできる。しかし、コロナ禍でスマートフォン予約の講習会ができなかったことや、あらたな端末購入費を助成金に含められなかったことから、なかなかIT化を推進できていない。
 さらにいえば、web予約の画面が少しわかりづらいため、作り込みができれば、スマートフォン予約のハードルがさげられたのではないかと木多さんは言う。そういった部分は助成金を使った事業を進める中で適宜増額・減額できる仕組みがあれば、さらによりよいサポートができたのかもしれない。
 他にも貨客混載の利用数の伸び悩みや決済が現金しかできないことをはじめ、まだまだ課題は残っている。

ツールと人だけでは仕組みづくりは上手くいかない

 非常に長くなったが、ここまで久米南町の「デマンド交通 カッピーのりあい号」について、町の姿やオンデマンド交通導入までの経緯も含めて紹介してきた。
 人口4500人程度の小さな自治体で乗合輸送の仕組みがここまでしっかりと構築できていることは多くの人にとっては新鮮な驚きなのではないだろうか。

 また、オンデマンド交通やICT技術を活用した予約・配車システムについて興味を持った人や担当者の熱意に胸をうたれた人も少なくないだろう。
 しかし、久米南町の乗合輸送がここまでの仕組みを構築できたのは、単にツールを導入したからできたとか、人がいたからできたという話ではない。もう少し深堀りしてみていきたい。

 まず、オンデマンド交通というツールに関して言えば、地域の特性に合致するか否かという部分が大きく成否に寄与する。例えば同じ中山間地域でも谷間に人が多く住んでおり、かつ居住地が平坦であれば、オンデマンド交通よりも定時定路線型のバスの方が運行効率がよいだろう。今回紹介した久米南町の場合は住宅間でも高低差がある。そして網の目のように張り巡らされた道路網がある。そうなると定時定路線型では乗車率や運行効率が悪くなり、オンデマンド交通の方が乗車率や運行効率が上昇する。地域特性に合わせて適切なツールを導入したというのが利用者数増に寄与したというのが正しい見方だろう。

「カッピーのりあい号」と久米南町の木多さん

 人に関して言えば、木多さんのように情熱のある担当者がいるにこしたことはないが、それだけでは不十分だ。元はといえばこの「カッピーのりあい号」の仕組み構築の前に町民バスの課題解決というところから始まっている。そこからひとつひとつ丁寧に課題をクリアしたことでオンデマンド交通の導入ハードルをさげ、ひいては「SAVS」システムの導入ハードルをさげている。そうした丁寧で少しずつ事業を前に進めたことも今日の「カッピーのりあい号」の仕組みづくりに大きく寄与している。

※特記がない写真は筆者撮影