助成先探訪

本記事でご紹介の岡山県久米南町が2022年11月22日(火)シンポジウムに登壇予定!

 このやり方はもちろん時間がかかる。まず町民バスの問題に着手したのが2013~2014年頃、オンデマンド交通の実証実験が2016年~2017年、「SAVS」システムの導入が2020年と足かけ7年以上かかっているのだ。久米南町の人口規模やまちの大きさでもこれだけの時間がかかるというのは重要なポイントだろう。
 逆に言えば久米南町は単独町制を貫いたからこそ、このオンデマンド交通の仕組みをこれだけの年月で構築できたともいえるのだ。もっと人口が多かったり、面積が広かったりすれば上手くいかなかったかもしれないといえよう。これもある意味では地域特性のひとつだ。

 また、事業を計画する主体、実施する主体をはじめとした事業関係者の関係性も重要だ。オンデマンド交通を計画した久米南町やバイタルリードの計画づくりや手順がしっかりしていたことももちろん素晴らしい。しかし、タクシー事業も行っているオンデマンド交通の事業者、事業のサポートとなる情報提供をしてきた岡山県、学識としてこの記事には書ききれないほどの様々な提案をしてきた岡山大学の橋本教授とゼミの学生たち。主な関係者だけを上げたが、これらの関係者達が時には問題点の指摘や異をとなえることもありながら、ほどよい緊張関係の中でオンデマンド交通を育ててきたのだ。

誰のために地域の移動をつくるのか?

 地域特性に合わせたツールの選定、丁寧な課題解決、緊張感がありつつも協力関係のある事業者間関係というのはどうやったらできるのだろうか。
 そのヒントになることを株式会社バイタルリードの宮下さんは次のように語った。
「町の交通は町が責任を持ってなんとかしていくという強い意気込みや責任があって、推進力が大きかったなと思いますね。例えばコスト削減なら、コストを削減したところで普通の自治体は終わってしまいます。実際にそこを目指して事業を進めているところは結構あるのですが、削減したコストを再投資に回して、利便性を高めてさらに利用者を増やすっていうところが、久米南町のすごいところだなと」(バイタルリード・宮下さん)

 木多さんにその原動力をうかがうと、「やるからにはベストを尽くしたいと思った」といわれた。これは町議員や住民の声を真摯に聞き、時にはクレームとしかいいようもない声もある中で生まれたものだという。
 つまり、「どうしたら町民に利用してもらえるか」、「どうしたら町民のためになるか」を理念として掲げ、行動することによって、カッピーのりあい号のような上手な仕組みづくりができているのである。

 よく、公共交通には「チエ」が必要だという。この「チエ」という言葉、ふわっとしすぎていると筆者は常々思っていた。しかし、久米南町のような例を見ていると、1歩踏み込んで考えることの積み重ねが「チエ」というものなのだと思えてきた。
 まず、現状をしっかり見つめる。その上で課題をしっかり洗い出す。そして課題解決のターゲティングをする。課題解決にむけて事業を推進する。この流れの中で、もう一歩、誰のためなのか、なにかできないかを考える。こうして見ると意外とどこでも出来る範囲のことの積み重ねだと思う。実際、木多さんも久米南町だけではなくどこでも出来る部分は大きいと語る。
 そして思考を積み重ねた上で作られたしっかりとした施策だけでは上手くいかない。どうしてもどこかでお金の「投資」が必要だ。これはどちらが欠けても効果的な施策を作るのは難しいだろう。

おわりに:トヨタ・モビリティ基金は助成金「も」出す団体に変わります

カッピーのりあい号は町民以外の利用も可能だ

 久米南町の「カッピーのりあい号」の仕組みは大いに勉強になるところがあった。そしてもう一度思うのは、助成金はあくまでツールのひとつにすぎないことだ。そして今回のような上手な助成金の使い方の事例があるからこそ、助成金の課題や助成金だけではないサポートが必要なのだということもわかる。
 トヨタ・モビリティ基金は今後の「地域にあった移動の仕組みづくり」プロジェクトの中で、こうした助成金にとどまらないサポートをしていくことを企画している。そして、お金にとどまらない様々な支援をしていくことで、「地域にあった移動の仕組みづくり」を広げたいと考えている。ただ助成金を採択した主体に助成するわけではなく、事業を行う主体とともに協働し、共に成長していきたいと考えているのだ。

 その際に久米南町の事例というのは大きなヒントになるだろう。ぜひ視察をして久米南町の人に話を聞きたいという人もいるかもしれない。 でも、筆者としては視察という形ではなく、もっと観光のような気軽な気持ちで久米南町に行って欲しい。例えば、岡山や津山に行く際はもう半日とって、津山線を使って久米南町に寄ってみてほしい。
 そして、「カッピーのりあい号」を使って町内を移動してみてほしい。その時、このオンデマンド交通が生まれた経緯に思いをはせつつ、車窓に見える地域とつなげてみてみると、「地域に合った移動の仕組み」というものがどういうものか、ヒントが少し見えてくるような、そんな気がする。

※特記がない写真は筆者撮影