CASE STUDY 地域の移動 参考事例 CASE STUDY 地域の移動 参考事例

  • 導入事例
  • 舟屋の里・伊根を走るグリーンスローモビリティ

高齢者に優しい移動サービスを舟屋の里・伊根を走るグリーンスローモビリティ

昔ながらの街並みが残る舟屋の里で、電動小型低速車両のオンデマンドサービスの実証実験を行う。
観光客の周遊手段に加え、高齢化が進む集落の生活の足として、IoT技術の活用などでより便利なサービスを目指す。

課題
観光振興と過疎化、伊根町の抱える課題とは
ポイント
グリーンスローモビリティとデマンド予約システムで課題解決を
継続性
持続可能なサービスを目指し、有償運行を実施
合意形成
合意形成のキーマンは「観光協会」
結果
利便性を高め、地域に根ざす移動サービスとなるために

観光振興と過疎化、伊根町の抱える課題とは

丹後半島の北東部に位置する京都府与謝郡伊根町は人口約2,100人の町だ。2017年には約31万人の観光客が訪れる人気の観光地だが、町内の周遊手段は主に徒歩に限られていた。また、高齢化率が46%と京都府内で最も高い水準にあり、地域内を走るコミュニティバスの本数が限られている。従来の交通網を補完し、地域の移動手段を確保することが大きな課題となっていた。

グリーンスローモビリティとデマンド予約システムで課題解決を

実証実験の走行コース。
平日は伊根診療所から亀山集落まで、
土日祝は遊覧船のりばから道の駅の区間を走行する。

一連の課題を解消するべく、伊根町は小型で低速走行を行う電動車両「グリーンスローモビリティ」を用いた実証実験を行った。車両はヤマハ発動機が開発したランドカー(主にゴルフ場などで利用されている電動小型低速車両)を採用。ドアが無いオープンな構造で、かつ低床の構造だ。外の風景だけでなく、町の匂いや音を感じながら走行できるので、観光に非常に適している。また、高齢者でも乗り降りがしやすいことが大きなメリットだ。

実証実験は2017年7月から、2018年11月からそれぞれ1カ月間行われた。2017年の実証は、遊覧船のりばや道の駅などの拠点を結び、主に観光利用を想定して実施した。2018年の実証実験では、地域の移動の足へのニーズが高まり、オンデマンドサービスを導入。住民が多く利用する平日の路線は、伊根診療所から亀山集落まで延線し、停留所は4カ所から19カ所へと増加した(図参照)。実施期間も観光客の閑散期である11月に実施し、住民利用の検証を主眼に置いた。伊根町としては、地域内のコミュニティバスを補完するだけではなく、将来的な交通体系の再編を視野に入れたときに、オンデマンドサービスの構築を推し進めることは非常に重要という考えで臨んでいる。

2018年に行われた2回目の実証実験では、デンソーから実証用車両のロケーションシステムとオンデマンド予約システムが提供された。ロケーションシステムについては、車両に搭載したスマホのGPSから位置情報を収集し、走行位置や運行遅れなどを知ることができる。各バス停に設置されたQRコードを読み取ると、利用者が車両の運行状況を自身のスマホで確認できるシステムだ。

予約システムは、平日のデマンド運行に合わせて開発され、伊根町の住民や観光客の利用を想定している。予約はスマホとタブレットどちらからでも可能。インターネット環境があれば、個人の端末から予約できる。また、実証に協力する地域の高齢者10名にはタブレット端末の無償配布も行った。外国人観光客も想定し、英語表記にも対応している。利用日時と乗車人数を入力すると、システム側で運行計画を自動作成し、ドライバーに運行指示を出すことができる。

このシステムをスムーズに導入できたのは、地域の防災無線のデジタル化の動きと関係している。デジタル防災無線の導入を進める上で、通信システムなどをはじめとした技術が、移動課題の解決を図るオンデマンドサービスへ活用できるのでは、というアイデアが生まれたのだ。

持続可能なサービスを目指し、有償運行を実施

2017年の実証において運賃は無償で行ったが、2018年は有償での実施に踏み切った。その理由として、今後継続的に地域の足として効果的な移動手段となるのかを検証する目的があった。運賃は平日と土日祝祭日で違いはなく、住民は1回300円(小児200円)、住民以外は1回500円(小児200円)。価格についても、昨年実証を行った際に実施したアンケートなどを参考している。アンケートに回答した半数近くの利用者が「500円程度が妥当」との意見だったという。

合意形成のキーマンは「観光協会」

タブレット講習会の様子

2018年の有償運行については、地域公共交通会議において合意形成を行った。そこでは運行方法への提案など前向きな質問が多く挙がり、官民ともに課題解決に向けて高い関心を持って臨んでいたことが伺える。

また、デマンド予約システムは専用のタブレットを使用して行うため、高齢者にとってわかりやすい操作方法であることが大変重要になる。当実験においては、実験に協力する住民を集め説明会を実施し、個別の説明対応も行う体制を整えた。また、導入されたデンソーの予約システムは、すでに全国10カ所以上の自治体で運用しており、そこで得たノウハウを生かしながら操作方法を周知することができた。また、今回2台の車両を運転した10名のドライバーは、全て事前に講習を受けた地域住民だという。運賃や利用する側への配慮だけでなく、ドライバー確保についても地域で利用されるサービスとなるための工夫がみられる。

地域住民への合意形成を行う上で、伊根町観光協会が大きな役割を果たしている。伊根町観光協会は、「海の京都DMO(※1)」としての顔を持ち、「DMOは住民のための組織」と捉え活動している。会員には集落の区長などの地域住民が参加しており、定例理事会などを通して合意形成を行った。住民・技術提供を行うメーカー・町役場のハブ的な役割を果たし、住民への周知や合意形成、ドライバーの確保などに取り組むことで、包括的な合意形成を行うことができたと言えるだろう。

※DMO・・・観光、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人の略称

利便性を高め、地域に根ざす移動サービスとなるために

実証実験に使用した「ヤマハランドカー」YG-MLシリーズ(6人乗り、写真左)、AR-04(4人乗り、写真右)の改造車両

1回目の実験後に行ったアンケートでは、窓が無いため「風が気持ちいい」や、時速20km未満で走るため「ゆっくりと景色を見ながら観光ができた」「ゆっくり走行するので安心感があった」などの感想が得られ、おおむね良好な結果が得られた。2回目の実証で行った利用者へのヒアリングでも好意的な意見が多かったという。観光地の周遊に適している点は地元の商工業者にとってメリットが大きい。また、オンデマンド化によって再編された新たな交通体系は、従来の路線バスやコミュニティバスにとって代わる移動サービスになると、バス事業者からも期待を寄せられている。

一方で、2度の実証を通してさまざまな課題も見えてきた。今回は伊根町の舟屋が並ぶ沿岸のエリアを走行したが、山間部にも多くの移動不便を抱える住民が暮らしている。そうした地域の課題を解決していくためには、今回検証したグリーンスローモビリティという手段だけではなく、他の車両の使用も含めた総合的な検討が行われるだろう。舟屋をはじめとした観光資源を活用した移動サービスを構築し、交通空白地の移動課題も解決する。伊根町の取り組みは二つのテーマが相互に関わりながら進められていく。

取材協力

(一社)京都府北部地域連携都市圏振興社(海の京都DMO) 伊根地域本部(伊根町観光協会)
事務局長 吉田 晃彦 様
伊根町役場 企画観光課
主事 森下 育海 様